※今回の記事は物理を学んだことがない人にもわかってもらおうと思うので、かなり厳密性に欠けた表現が含まれています。
みなさんこんにちは!!
今回は衝撃的な内容ですが、物理を学んだ人にとって、
「あり得ないことなどない」
「不可能などない」
のです。
なんだかカッコイイことを言っているように思えますが、これにはちゃんとした根拠があります。
これは物理の量子力学という分野の「すべての事象は確率的に起こる」という考えに由来しているのです。
まあ、正確に言えば、物理屋は一般的に「絶対に起こりえないこと」を「起こりえないと考えてもよいくらい小さな確率」と判断するのですが…(つまり、やっぱり実質的にはあり得ない)
それでも、物理屋はその「あり得ないこと」が起きる確率が厳密に「0」であるとは言いません!!(厳密には有効数字というものがあるのですがここでは省略)
まあ、何言っているかわからないと思いますので、例を出して説明します。
人が壁をすり抜ける確率を計算するための状況設定
さて、実際に起こらないであろうと考えられる事象の例として、
「人間が壁に突っ込んで、その壁をすり抜ける」
ということを考えます(パワーワード(笑))。
ここで前提として、この壁をぶっ壊さずに通過するものとします。
まあ、普通に考えて「ありえない」ですよね。
想像してみてください。人が壁に突っ込むところを。そして、人がすり抜けるところを。
これが高確率で実現可能なら、やってはいけないことができてしまいそうですね。
では、この人が壁をすり抜ける確率を計算していきます。
状況は、以下のように設定します。
・壁の厚さは50 cm(0.5 m)
・壁の高さは2 m
・体重50 kgの人間が速度5 m/s(毎秒5メートル。50メートル走を10秒で走る速さ)で壁に突っ込む
この状況を図にすると以下の感じです。

ただし、問題を簡単にするため人の大きさは考えません(質点とみなす)。
人が壁をすり抜ける確率を計算
では、具体的にこの人が壁をすり抜ける確率を計算していきましょう。
人が壁に突っ込むとき、する抜ける確率 は近似的に以下の式で表せます。
この式の導出の説明は省略しますが、これはガモフ因子と呼ばれるもので、透過率を近似的に求める式です。
もう少し正確な透過率は計算できるのですが、あえて今回はこのガモフ因子を使って計算します。
は人間の体重、
は壁のポテンシャル、
は人間のエネルギー、
J・s はディラック定数と呼ばれる定数です。
壁のポテンシャルは壁の高さによるエネルギーで、高さが のとき
であり、 今の場合、考えている範囲では
J です。簡単のため、重力加速度
は10 m/s^2 としました。
人間のエネルギーは J です。
これらを用いると、壁をすり抜ける確率 は次のように計算できます。
この という数字は、ものすごい、とてつもなく小さい数字です。
これがどれくらいの確率かというと、この「人が壁に突っ込む状況」を1秒に一回繰り返すとすると、数百、数億年よりもずっと長い、数「澗(かん)」年くらいに一度、壁をすり抜けることになります。
「澗」とは桁数でいうと 、つまり100000…0000 と 0 が36個並んだ数字です。
つまり、これだけの年月をかければ、一度くらいは壁をすり抜ける計算になります。
まとめ
…はい、つまり壁をすり抜ける確率はほとんど0といっていいです。
こんな長い時間、これだけ小さな確率の数字を議論するのは意味がありませんね。
始めに「厳密には0でない確率で壁をすり抜ける」といいましたが、実質的には0なのです。だから、「こんなことは起こりえません」というのは正解です。
つまり、厳密に0ではないが、実質的に0であるということです。
ですが今回言いたいのは、壁をすり抜ける確率を計算した結果、 という0でない数字を導けるということなのです。
小さすぎてこの数字には意味がなく、0と思ってよいのですが、壁をすり抜ける確率として0でない数字が出てくるのはおもしろいと思います。
今回の計算でディラック定数 J・s というものすごく小さな数字が透過率
の分母に出てきたことが、この確率がとても小さくなっ原因のひとつです。もし体重
がもっと小さければ(軽ければ)、このディラック定数と約分されて確率はもう少し大きくなります。そして、「意味のある透過する確率」がでてきます。つまり、人間のように大きいものではなく、電子のような質量の小さい物質を主人公にしたミクロな世界では、壁をすり抜ける確率は意味を持ってくるのです。
このミクロな世界を議論するのが量子力学という学問です。
少しは量子力学の面白さが分かってもらえたでしょうか?
では、今日はここまでにします。
最後までご覧いただきありがとうございます!!
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