※この記事はある程度物理の知識がある方を対象に書かれています。物理にあまり精通していない方は、【初級編】ダークマター アクシオンをご覧ください。
今回は、ダークマターと呼ばれる未知の物質を構成する素粒子の有力候補であるアクシオン(axion)について述べようと思います。
世の中には、いまだ完全には解明されていない未知なる物質、「ダークマター」が存在します。
ダークマターの存在
まず、どのようにしてダークマターの存在が予測されたかについて述べます。
渦巻銀河から認められるダークマター
宇宙空間で銀河は渦巻き回転運動しています。下図は銀河中心からの距離における銀河 の回転速度を表しています。

光を出す物質の質量のみを考慮すると、万有引力の法則から銀河中心から離れるにしたがって回転速度は減少しますが、
一方で、銀河外縁を観測し、銀河に存在するガス回転速度をドップラー効果により見積もると、銀河中心から離れても回転速度は理論計算通りには減少しません。
つまり、このことから、理論計算には含まれていなかった引力の値が実際には存在し、銀河には質量をもつ光を出さない未知の物質が充填されていると考えることができます。
実験的に認められるダークマター
NASA の CMB(宇宙マイクロ波背景放射) 観測衛星 COBE、WMAP、宇宙望遠鏡プランクによって CMB が観測さ れ、その結果から
宇宙のエネルギー構成割合のうち、26.8%程度、ダークマターと呼ばれるが物質が存在していることが報告されています( http://www.astroarts.co.jp/news/2013/03/22planck/index-j.shtml )。
現在、知られている通常の物質(我々が知っている物質)、バリオン粒子は宇宙の構成割合の4.9%程度であり、残りの68.3%はダークエネルギーと呼ばれています。
そのほか、重力レンズ効果などからもダークマターの存在は確認され、理論的にもその存在が予言されています。
このように、銀河の回転速度、重力レンズ効果などの観測および理論的解釈から「暗黒物質ダークマター」が宇宙に存在することは確実視されています。
ダークマターを構成する粒子の有力候補
ダークマターを構成する粒子の候補として、
超対称性理論に基づいたニュートラリーノ(WIMPs(Weakly Interacting Massive Particles))や、
今回紹介する、アクシオン(axion)があります。
ダークマター アクシオン
ダークマターの有力候補として 非バリオン暗黒物質粒子アクシオンがあります。
アクシオンは宇宙初期に非熱的に数多く生成された非相対論的粒子 であり、電気的に中性で、
アクシオンの質量は 0.001 eV 以下と非常に軽いです。
ちなみに、WIMPsの質量は10~10000 GeVと、アクシオンの質量に比べて、非常に重いです。
アクシオンは QCD における強い CP 問題を解決するために導入された擬スカラー 粒子でもあります。
QCD における 強い CP 問題とは、素粒子物理学領域での標準理論の強い力を説明する QCD(量子色力学)は CP 対称性(C(Charge)変換と P(Parity)変換を同時に行った際の理論的不変性)が強い 相互作用において破られると予想しているにもかかわらず、実際は良く保存されていると いう問題です。
このように、ダークマター探索としてだけでなく、素粒子物理学の観点からもアクシオン探索は有意義です。
アクシオンの特性
アクシオンの興味深い特性のひとつに、2 光子との相互作用があります。アクシオンは電場や磁場と相互作用し、低い確率で光子(フォトン)に転換します。
このアクシオンが光子に転換する効果を、Primakoff (プリマコフ)効果といいます。
また、反対に、光子がアクシオンに転換する効果を逆プリマコフ効果といいます。
このプリマコフ効果を用いて、アクシオンを観測しようとしている研究グループが多くあります。
ちなみに、光子との相互作用 Lagrangian は以下の式で与えられます。
つまり、電場と磁場
が平行なときに、最もアクシオンは光子に転換しやすくなることになります。
ダークマター探索の研究は進んでいる
2017年5月ごろ、カナダの大学がダークマター(コールドダークマター)の可視化に成功したと発表しました(https://academic.oup.com/mnras/article/468/3/2605/3059154)。
また、アクシオン探索研究グループのADMX(The Axion Dark Matter eXperiment)は、アクシオンを検出する機器の開発に成功し、「時間さえあれば、アクシオンを探索できる」と発表しています (https://gigazine.net/news/20180414-axion-particles-detection-technology/)。
僕らが生きているうちに、ダークマターの正体が解明されることを祈るばかりです。
※この記事は僕が大学生の時に執筆した論文を参考にしています。
※今回は、かなり専門的に書きました。ダークマターアクシオンについてよくわからなかった方は以下の記事も見てみてください。
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